同居した雪童子(ゆきわらし)

「コツ、コツ、コツ、コツ」
 音がだんだんと鮮明になり近づいてくる。
 朦朧とした頭の霞が剥がされていくような、ここは何處なのか。
 周囲を見渡したが分からない。私は白い壁にかこまれている。手を振ってみようとしたが動かない。
 待てよ、周章てることはない。
 九十歳の老婆の度胸が頭を持ち上げてきた。
 大丈夫、もう一度手を振ってみた。
「アラ気がついた。」
 耳元で大声が・・・・かくして私は全身麻酔から脱却することが出来た。
 実は「右人工股関節全置術」の病名で入院手術をしていたのです。右足の痛みが日毎に増して整形の先生からは半年も前に手術を勧告されていました。
「働きすぎですよ」の言葉とともに。
 車椅子の生活は嫌だし、先づ第一に九十八歳の夫のことが脳裡をよぎる。そして、「覚悟してみるか」の次第になりました。
 病院生活を二ヶ月有余、私の知らない世界をとっぷり味わってきました。人の命に係わる仕事をしている人の阿吽の呼吸、簡潔な処置の厳しさ、私の今までの生活にないものを見聞して、病院の毎日は新鮮で反省と勉強の日々となりました。
 私の右足の中で同居することになりました、少女の形をした異物を私は「雪わらし」と名付けています。
 悪戯っ子の雪わらしは時々信号を送ってきます。夜更けて私を安眠させない悪戯もします。まだ両手に杖を持った私から杖を落とさせたり、私は今の所雪わらしに振り廻されていますが、早く仲良くなって同居生活に馴れてゆきたいと思っています。
 今日は氷雨 雪わらしは静かに眠っています。
                                   (木村喜美子)