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佐古川の今昔

 時ならぬ騒々しい子供たちの声につられて、久し振りに外に出た
長い竹竿を持った子供を先頭に四・五名の子供が川の中を覗きこんでいる
川面を指さして大声を出している。子供と一緒になって川面を見ていたら、大きな布巾を拡げたようなものがヒラヒラと泳いでいる。
エイぢゃ」「エイぢゃ」と子供達が叫ぶ
大きな翼を拡げたような魚が二匹、まるで舞を舞っているかのように橋の下にゆっくりと消えて行った。
サラサラと流れる佐古川、現在の佐古川は潮の干潮をはっきり表現する川になっているが、昭和35年頃のすさまじいこの川の形相を思い出した

 我が家は川の北岸、小学校の正門と斜めにむきあっている。今から五十年も前になるが、早朝三時頃、金魚の餌にするアカコ取りの人達の大声に目を覚まされたものだ。水たまりのような川でピチャピチャとジョレン(アミ目のすくいあげる道具)で川底の土を掻きあげる。ピチャピチャの音とそれにも勝る大声の四方山話、息を潜めるように私は蒲団の中で聞かされたものだ。
今何時と思っとるのよ、眠たいよ」心の中では切に思ったが、不思議と腹は立たなかった。生活のため、家族のためにこんな寒い早朝、水の中でピチャピチャと赤子を掬っている人達のひたむきな暮しを思っていた
「今朝は、ようけ採れたなあ」五時頃が来るとそれぞれにオートバイの音をさせて彼等は帰って行く。「よかったなあ大漁で」さあこれからの暫時が私の熟睡の時間になるのである

 にぎやかな学校の一日が暮れ、はち切れるような大勢の子供達が帰って行く。学校が静かになった夕方、佐古川独特の臭いが漂う、近くの銭湯から流れ出た湯が川面を覆ってくるのだ。まるで温泉にでも来たような風景を醸し出す。
その昔「五番所夕霧桜」と名付けた下宿の学生達の妙を得た名稱もなつかしい

 毎年めざましく佐古川はきれいになった。冬は渡り鳥が水面に羽摶き、夏は白いエイが水中に乱舞する。しかし、白い大きな袋の網を持った蝉とりの子供も、玉網を持って鮒を追っかける子供も一人も見ない。昔の風物詩の一つになってしまった。

静寂の中に、佐古川は昨日も今日も潮の満ち引きをくりかえしている

                            木村 喜美子