「世界のクロサワ」

 ゴールデンウィーク後半は体調が芳しくなかったこともあり、おとなしく家で映画を観て過ごすことにしました。今日はそのなかからクロサワ映画を3本ほど紹介したいと思います。ただ、クロサワはクロサワでも明ではなく清の方ですが。


『CURE』(1997)
 まったく面識のない容疑者たちが同様の手口で殺人を犯す、という奇妙な事件群を追う刑事の前に一人の若者が姿を現した。しかしその若者は自身の記憶すら失った空っぽの状態で…。

黒沢清といえばこれ。数年ぶりに観ましたが、邦画+ホラー=『CURE』という地位は揺らぎませんね。

刑事役の役所広司、青年役の萩原聖人の演技は文句なし。無駄な描写はひとつもなく、映像は甘美。砂丘を萩原が彷徨う場面とバスに揺られる役所のカットがお気に入りです。

デヴィット・フィンチャー監督の『セブン』、大友克広の漫画『童夢』が好きな方で未見の方は是非!


『トウキョウソナタ』(2008)
 突然会社をリストラされた父は、このことを家族には黙り通し続ける一方、妻や息子には家族の間で隠し事をするのはよくないと厳しくあたる。日一日と崩れてゆく家族。ある日、ついに父のリストラが発覚。そしてその後、家族のそれぞれが、決して口外したくない強烈な体験をするわけだが、不思議なことにその日を境に家族は再生へと歩を進める。

 『CURE』から一転、この映画の主題は家族。図らずも各人が持つことになってしまった秘密が適度な距離感(よそよそしさ)を生み、それにより絆が深まるという切り口はお見事。家族の新生を祝福するラストのピアノ演奏は秀逸。

 大河ドラマ『龍馬伝』での岩崎弥太郎役が評判の香川照之が父親役を熱演。専業主婦役の小泉今日子の感情を抑えた演技も必見。

 同じく、人と人、人と社会との距離感を扱った佳作である、橋口亮輔監督の『ぐるりのこと。』もセットでどうぞ。


『ニンゲン合格』(1999)
 10年間の昏睡状態から奇跡的に意識を取り戻した主人公。しかしこの間に家族は離散し、意識が回復した後病院に見舞いに来てくれたのは、父の旧知、つまりは赤の他人の男だけ。失ったもの、すなわち在りし日の家族を取り戻そうと努力するが報われない日々が続く。しかもその手伝いをしてくれるのは肉親ではなく、他人である父の友人という悲喜劇。ラスト。ついに家族はひとつの場所に集うことになるのだが、実はその日は…。

 「遠くの親戚より近くの他人」ならぬ「遠くの家族より近くの他人」。「遠く」という言葉が、物理的な距離のみならず、「思い出」や「記憶」といった心象的な距離をも含意するのだと解釈すれば面白い。

主人公を西島秀俊、父の友達役を役所広司が好演。特に役所の朴訥さが、見ているものの胸を打ちます。

『トウキョウソナタ』とは違って人を選ぶ映画かもしれませんが、テーマはやはり家族。連休中に観た、園子温監督の『紀子の食卓』も同種のテーマを扱った秀作ですので、興味のある方は併せてご覧ください。